エンタルピー(Enthalpy)とは、熱力学における状態関数のひとつで、物質やシステムが持つ「内部エネルギー」と「圧力 × 体積(仕事の項)」を合わせた量を指す。読み方は「エンタルピー」。英語表記は「Enthalpy」。一般に記号「H」で表され、H = U + pV(Uは内部エネルギー、pは圧力、Vは体積)で定義される。生体や運動学においては、代謝反応やエネルギー変換過程での熱のやり取りを考える際に重要な概念である。
生体内の化学反応、特にATPの加水分解や栄養素の酸化分解はエンタルピー変化を伴う。例えば、ATP → ADP + Pi の反応では自由エネルギー(ΔG)が放出されるが、同時にエンタルピー(ΔH)として熱も放出される。この熱は体温維持や代謝の副産物として現れる。また、運動時の酸素消費やエネルギー代謝を測定する際、呼吸商(RQ)や酸素当量とともにエンタルピーの変化を考慮することで、栄養素の燃焼効率をより正確に理解できる。
運動時には筋収縮のためにATPが大量に分解されるが、この過程で放出される自由エネルギーの一部が機械的仕事に利用され、残りは熱(エンタルピー変化)として体内に残る。したがって運動は常に発熱を伴い、発汗や血流調節を通じて体温調節が行われる。エンタルピー概念を理解することで、運動効率(入力エネルギーに対して実際に仕事として使われる割合)や疲労の発生メカニズムを科学的に説明できる。
エンタルピーは、エネルギー代謝を「仕事」と「熱」の両側面から捉えるために重要である。運動学では、代謝エネルギーの一部しか機械的仕事に変換されず、多くが熱となることが知られており、これは効率的な運動やパフォーマンス維持の理解につながる。さらに、栄養素ごとのエネルギー産生効率(炭水化物、脂質、タンパク質の酸化に伴うエンタルピー変化)を理解することは、スポーツ栄養や体重管理にも応用できる。
研究では、呼吸代謝測定を通じて酸素消費量と二酸化炭素排出量を測定し、栄養素の酸化に伴うエンタルピー変化を推定することが行われている。例えば、炭水化物の酸化は脂質よりも効率的にエネルギーを仕事に変換できることが示されている。また、運動効率(mechanical efficiency)は20〜25%程度であり、残りは熱として消費されることが知られている。
エンタルピーは「熱そのもの」と混同されやすいが、正しくは「系の全エネルギーのうち圧力-体積仕事を含めた熱力学的状態量」である。また、自由エネルギー(ΔG)と異なり、エンタルピー変化(ΔH)が負であっても反応が自発的とは限らない点に注意が必要である。運動生理学ではΔHとΔGの両方を考えることで、代謝とエネルギー効率をより正確に理解できる。
A1. エンタルピー(ΔH)は熱の出入りを含むエネルギー変化を表し、自由エネルギー(ΔG)は反応の自発性や実際に利用できる仕事を示します。
A2. はい。ATP分解や代謝反応の際のエンタルピー変化によって熱が発生し、体温上昇につながります。
A3. あります。炭水化物、脂質、タンパク質では酸化に伴うエンタルピー変化が異なり、エネルギー効率や利用可能なATP量にも影響します。