ケトン体(けとんたい、Ketone bodies)は、肝臓で脂肪酸が分解される際に生成される代謝産物の総称です。主にアセト酢酸(Acetoacetate)、β-ヒドロキシ酪酸(β-Hydroxybutyrate)、アセトン(Acetone)の3種類が存在します。糖質が不足した状態や絶食時、長時間の運動中に体内で増加することが特徴です。ケトン体は脳や筋肉などのエネルギー源として利用されるため、糖に代わる重要な代謝物質として知られています。
ケトン体は主に肝臓のミトコンドリア内で生成されます。脂肪組織から放出された脂肪酸はβ酸化によってアセチルCoAに変換され、余剰のアセチルCoAがケトン体合成(ケトジェネシス)に回されます。生成されたケトン体は血流を通じて全身に運ばれ、特に脳、心臓、骨格筋でエネルギー源として利用されます。糖質が制限された状態では、グルコースに代わる主要な燃料として機能します。また、ケトン体は代謝的シグナル分子として、細胞のエネルギー代謝や炎症反応に影響を与えることも知られています。
ケトン体は持久系運動においてエネルギー効率を高める役割があります。長時間の運動や糖質制限を伴うトレーニングでは、体は脂肪を主なエネルギー源として利用し、ケトン体が筋肉や脳に供給されます。これにより、グリコーゲンの消耗を抑えつつ持久力を維持できるとされています。また、ケトジェニックダイエットや断続的な断食により、体のケトン体産生能力が高まることも報告されています。
ケトン体はエネルギー供給だけでなく、代謝の柔軟性や健康維持にも関与しています。糖質不足時の代替エネルギーとしての役割に加え、神経保護作用や抗炎症作用、心臓や筋肉の代謝効率向上にも寄与します。運動選手にとっては、持久力の向上や回復の補助、体脂肪の燃焼促進に関係する重要な物質です。さらに、ケトン体レベルを適切に維持することで、筋肉の分解を防ぎ、筋肥大やパフォーマンス維持にも役立つと考えられています。
研究によると、絶食や糖質制限によるケトン体上昇は、脳のエネルギー供給を安定化させ、認知機能の維持に寄与することが示されています。実験では、ケトン体を投与された動物モデルで運動持久力の向上や炎症反応の抑制が確認されました。また、ヒトの臨床研究では、ケトジェニックダイエットを行うことで血中ケトン体濃度が上昇し、脂肪酸酸化能力の向上や体脂肪減少効果が報告されています。
ケトン体に関しては、「ケトン体=危険」という誤解がよくあります。確かに糖尿病性ケトアシドーシスのように異常に高いケトン体濃度は危険ですが、通常の運動や食事制限でのケトン体上昇は生理的で安全です。また、ケトン体は脂肪燃焼のみに関与するわけではなく、エネルギー代謝全体の調整や細胞シグナル伝達にも影響を与えます。臨床と運動領域での意味が異なるため、文脈に応じた理解が必要です。
A1. 糖質制限や絶食では数時間から1日程度で血中ケトン体が上昇します。
A2. はい。特に持久系運動では、グリコーゲンを温存しながらエネルギー供給に寄与します。
A3. 糖質制限食、長時間の有酸素運動、断食やケトジェニックダイエットにより増加します。