サイロキシン(Thyroxine, T4)は、甲状腺から分泌される代表的な甲状腺ホルモンの一つで、もう一つの主要ホルモンであるトリヨードサイロニン(T3)の前駆体となる物質です。血中では主にT4の形で存在し、肝臓や腎臓などの末梢組織でT3に変換されることで生理的作用を発揮します。サイロキシンは基礎代謝や成長、発達に重要な役割を担うホルモンです。
サイロキシンの分泌は、視床下部-下垂体-甲状腺(HPT軸)によって制御されます。視床下部から分泌されるTRH(甲状腺刺激ホルモン放出ホルモン)が下垂体前葉を刺激し、TSH(甲状腺刺激ホルモン)が甲状腺を活性化することでT4(サイロキシン)が分泌されます。ヨウ素は合成に不可欠な元素であり、不足や過剰は分泌異常の原因となります。また、ストレスやエネルギー不足も分泌量に影響します。
サイロキシンは代謝を活発化させるため、筋肉に対して以下のような影響を持ちます。
運動はサイロキシンの働きを補助し、代謝効率を高める効果があります。特に持久的な有酸素運動は甲状腺ホルモンの感受性を改善し、筋トレはエネルギー利用効率を高めます。ただし、過度な運動や極端なカロリー制限はサイロキシンの分泌を抑制し、代謝低下を招くことがあります。
サイロキシン合成にはヨウ素とチロシンが不可欠であり、海藻類や乳製品、魚介類に多く含まれます。また、T4を活性型T3に変換するにはセレンが重要で、ナッツ類や魚に豊富です。亜鉛や鉄も補助的に必要です。サプリメントとしてはヨウ素やセレンが知られていますが、過剰摂取は甲状腺機能障害を引き起こすため注意が必要です。
サイロキシン不足(甲状腺機能低下症)では、代謝低下、体重増加、むくみ、筋力低下、倦怠感などが見られます。過剰(甲状腺機能亢進症)では、頻脈、体重減少、発汗過多、不安感、筋肉の異常分解による筋力低下が起こります。どちらも筋肉と代謝に強く影響します。
研究では、サイロキシンがエネルギー代謝や筋肉機能に大きく関与していることが確認されています。甲状腺機能低下症では筋力低下や運動能力の低下が見られ、適切なホルモン補充療法により改善することが報告されています。アスリートにおいても甲状腺ホルモンバランスはパフォーマンスに直結するため、重要な健康管理指標とされています。
「サイロキシンを増やせば痩せる」「筋肉が増える」といった誤解がありますが、過剰な分泌や投与は筋分解や心血管系のトラブルを引き起こします。体重や筋肉をコントロールするには、サイロキシン補充ではなく、バランスの取れた生活習慣が基本となります。
A1. 直接的な筋肥大作用はなく、代謝やエネルギー供給を支えることで間接的にサポートします。
A2. 倦怠感、体重増加、筋力低下、むくみなどが起こります。
A3. ヨウ素、セレン、亜鉛、鉄を含む食品の摂取が役立ちますが、過剰摂取には注意が必要です。