サムレスグリップは、バーベルトレーニングやダンベルトレーニングで使用される握り方の一種で、英語では「Thumbless Grip」や「Suicide Grip」とも呼ばれます。日本語では「親指を巻かない握り方」と表現されることがあります。このグリップは親指をバーの下に沿わせる形で握り、親指を反対側に回さないため、通常のサムアラウンドグリップより手首が真っ直ぐに近い状態になります。特にベンチプレスやオーバーヘッドプレスなどの押す動作で用いられることが多く、手首の角度を調整しやすく、肩や胸への力の伝達をスムーズにする特徴があります。
運動生理学的には、サムレスグリップは手首の角度を直線に近づけ、胸部や肩部の筋群への負荷をより直接的に伝えることができます。サムアラウンドグリップでは親指をバーに巻きつけるために握力が強く働きますが、サムレスグリップでは握力よりも押す動作のフォーム維持に重きを置くことができます。そのため、肩関節の動作範囲(ROM)や胸筋の伸展・収縮を最大化したいトレーニングに有利です。ただし、親指でバーを固定していないため、グリップが不安定になりやすく、安全面で注意が必要です。
サムレスグリップは、主にベンチプレスやインクラインベンチプレス、オーバーヘッドプレスなどの押す種目で使われます。握り方により手首が真っ直ぐになり、肩関節や胸筋の可動域を広げやすくなるため、特定の筋群への負荷を集中させやすくなります。競技レベルのボディビルダーやパワーリフターの中には、胸筋の収縮を意識的に増やす目的でこのグリップを使用するケースがあります。しかし、バーを落とすリスクがあるため、スポッター(補助者)がいる環境で行うのが推奨されます。
サムレスグリップの最大のメリットは、手首を自然に近い角度で保てるため肩や胸に直接的な負荷をかけやすい点です。これにより、胸筋や三角筋前部の発達を意識したトレーニングが可能になります。また、押す動作で手首の角度を調整しやすいため、個々の関節構造に合わせたフォーム調整ができ、肩の違和感を軽減する効果も期待できます。ただし安全面を考慮すると、重量設定やスポッターの有無を慎重に判断することが重要です。
サムレスグリップは「安全ではない」とされることがありますが、正しいフォームと適切な重量であれば安全に使用可能です。最大の注意点は、バーが手から滑りやすくなることです。そのため、ベンチプレスやオーバーヘッドプレスなど、バーが顔や頭の上に来る動作では特にリスクが高く、初心者や高重量での使用は避けるべきです。また、親指を巻かないため握力はサムアラウンドグリップほど支えにならず、前腕の疲労が早く出ることがあります。
一部の筋力トレーニング研究では、サムレスグリップを用いることで胸筋の収縮率がわずかに増加することが報告されています。また、ボディビルダーやフィットネス競技の現場では、胸筋のピーク収縮や肩への負担軽減を目的に、軽〜中重量でサムレスグリップを採用する事例が見られます。逆に、パワーリフティングの公式競技では安全面を考慮して推奨されない場合が多く、グリップの安定性が重要視されます。
A1. 適切な重量とスポッターがいれば安全ですが、バーが滑りやすいため注意が必要です。
A2. ベンチプレスやインクラインベンチプレス、オーバーヘッドプレスなどの押す種目で効果的です。
A3. サムレスグリップは握力がサポートしにくいため、軽〜中重量でフォームを安定させることが重要です。