ニコチン酸(英語表記:Nicotinic Acid、別名:ナイアシン、読み方:にこちんさん)は、水溶性ビタミンの一種で、ビタミンB群の仲間(ビタミンB3)に分類されます。ナイアシンは「ニコチン酸」および「ニコチンアミド」という形態で存在し、いずれも体内で補酵素NAD⁺やNADP⁺の合成に利用されます。これらの補酵素は細胞内のエネルギー代謝を担う重要な物質であり、体のあらゆる機能に関与しています。ナイアシンは食品中にも広く含まれ、また体内で必須アミノ酸トリプトファンから合成されるため、多くの人にとって欠乏症はまれです。
ナイアシンは体内でNAD⁺やNADP⁺として機能し、酸化還元反応を介してATP産生に関わります。これにより糖質・脂質・タンパク質の代謝をサポートし、エネルギー供給を円滑にします。また、DNA修復や遺伝子発現調整、抗酸化作用のサポートなどにも関与しており、細胞機能の維持に欠かせません。さらに、ニコチン酸は血管拡張作用を持ち、血中脂質の改善作用が報告されています。
ナイアシン不足はペラグラ(pellagra)と呼ばれる欠乏症を引き起こし、皮膚炎、下痢、認知機能障害など「三大症状(3D:Dermatitis, Diarrhea, Dementia)」を特徴とします。一方、過剰摂取では「ナイアシンフラッシュ」と呼ばれる皮膚の紅潮・かゆみ、吐き気、肝機能障害などが報告されています。特に医療目的で高用量を使用する場合は注意が必要です。
ナイアシンは肉類、魚類、ナッツ類、全粒穀物などに多く含まれます。日本の食事摂取基準では、成人男性で1日15mgNE(ナイアシン当量)、女性で12mgNEが推奨されています。通常の食事で十分に摂取できますが、アルコール依存症や偏食などでは不足のリスクがあります。サプリメントとして利用する場合は過剰摂取に注意が必要です。
ナイアシンはエネルギー代謝に関与するため、運動時のパフォーマンス維持に寄与します。また、血流改善作用があることから、トレーニング後の疲労回復や筋肉への栄養供給を助ける可能性があります。ダイエット中に不足すると代謝効率が下がるため、適切な摂取が重要です。
臨床研究では、高用量のニコチン酸投与がHDLコレステロール増加やLDL低下に効果的であることが示されていますが、副作用のリスクも高いため医療現場での使用に限られています。また、ナイアシン摂取と認知機能の維持との関連を示す報告もあり、今後の研究が期待されています。
「ナイアシン=ニコチン」と誤解されることがありますが、タバコに含まれるニコチンとは全く異なる物質です。また「多く摂れば疲労がなくなる」というのも誤解であり、過剰摂取はむしろ健康被害を招く可能性があります。通常の食生活で不足することは少ないため、特別な理由がない限りサプリメントの高用量摂取は控えるべきです。
A1. いいえ。名前は似ていますが、ナイアシンはビタミンであり、ニコチンとは全く異なる物質です。
A2. 高用量摂取により血管拡張作用が強く出ると「ナイアシンフラッシュ」と呼ばれる紅潮が起こります。通常は一時的で無害ですが、不快感を伴うことがあります。
A3. 一般的な食事をしていれば不足することはほとんどありません。必要な場合は医師や専門家に相談してください。