代謝亢進(たいしゃこうしん、英語:Hypermetabolism)とは、基礎代謝や全身代謝が通常よりも高い状態を指します。つまり、安静時でも通常より多くのエネルギーを消費する状態です。代謝亢進は生理学的現象として運動やストレス反応で起こることもあれば、病態として感染症、外傷、甲状腺機能亢進症などの疾患に伴う場合もあります。運動学や健康科学の視点では、エネルギー消費の増加や体組成変化との関係が注目されます。
代謝亢進は、細胞内のATP消費や酸素消費量が増加することによって生じます。異化反応(炭水化物、脂質、たんぱく質の分解)が活発になり、同化反応(筋タンパクやグリコーゲン合成)は相対的に追いつかないことがあります。この状態では、体温上昇、心拍数増加、呼吸数増加などの生理反応が伴いやすく、長期化すると体重減少や筋量減少を招くことがあります。ホルモンとしては、甲状腺ホルモン、カテコールアミン、コルチゾールが代謝亢進を促進する主因として知られています。
運動中は一時的に代謝亢進が起こります。特に高強度トレーニングやレジスタンストレーニング後は、運動後の酸素消費量(EPOC)が増加し、安静時でもエネルギー消費が高まります。これにより、体脂肪燃焼や持久力向上、筋肥大促進に寄与します。しかし、病的な代謝亢進では、筋タンパク分解が進行して筋量減少や体力低下を招くため、運動計画や栄養管理に注意が必要です。
代謝亢進の理解は、体組成管理や運動パフォーマンス向上、病態管理の両面で重要です。運動に伴う一過性の代謝亢進は、トレーニング効果の指標やエネルギー消費量の推定に役立ちます。一方、病的代謝亢進は、エネルギー不足や栄養障害、筋量減少のリスクとなるため、適切なエネルギー補給や回復管理が必要です。医療現場では、重症患者や甲状腺疾患患者の栄養管理・リハビリ計画において特に注目されます。
研究によると、重度の外傷や熱傷患者では、基礎代謝が通常の1.5〜2倍に亢進することが報告されています。また、運動生理学の実験では、高強度運動後のEPOCにより、安静時でも数時間から24時間にわたってエネルギー消費が増加することが確認されています。さらに、甲状腺機能亢進症患者では、心拍数増加や体重減少、筋力低下と代謝亢進の関連が示されています。
代謝亢進=必ず体重減少や健康に良い、という誤解は注意が必要です。運動による代謝亢進は有益ですが、病的状態による代謝亢進はエネルギー不足や筋量減少を引き起こす可能性があります。また、基礎代謝の増加だけでは栄養不足を補うことはできないため、十分な栄養補給や適切な休息が不可欠です。
A1. いいえ。運動による一過性の代謝亢進もありますが、病態として安静時でも代謝が高まる場合があります。
A2. 運動による場合は脂肪減少につながることがありますが、病的代謝亢進では筋量減少や栄養不足による健康リスクが伴う場合があります。
A3. 栄養補給、休息、適切な運動計画を組み合わせることが重要です。病的代謝亢進では医療管理が必要です。