無酸素性作業閾値(むさんそせいさぎょういきち)〔AT:Anaerobic Threshold〕

無酸素性作業閾値とは?

無酸素性作業閾値(むさんそせいさぎょういきち、英語:Anaerobic Threshold、略称:AT)とは、運動強度が増加する際に、筋肉のエネルギー供給が酸素だけでは不足し、無酸素代謝(解糖系)による乳酸生成が急激に増加するポイントを指します。言い換えると、有酸素運動中心の代謝から無酸素運動を併用する代謝に移行する境界点です。心拍数や呼吸、乳酸濃度の変化を指標として評価されます。

生理学的・科学的な概要

無酸素性作業閾値では、酸素供給によるATP生成だけではエネルギー需要を満たせず、解糖系によるATP産生が活発化します。この際、乳酸が筋肉や血中に蓄積され、pH低下を引き起こします。ATに到達する前は、運動は主に脂質や糖質の酸化による有酸素代謝で維持されますが、ATを超えると速筋線維の動員と無酸素性エネルギー供給が優位になります。呼吸ガス分析では、酸素摂取量(VO₂)と二酸化炭素排出量(VCO₂)の変化点としても測定可能です。

トレーニングや運動との関係

ATは持久力トレーニングや競技パフォーマンス評価に重要な指標です。ATに近い強度で運動を行うことで、乳酸耐性の向上や有酸素・無酸素代謝の効率的利用が促されます。例えば、ランニングやサイクリングでATペースでのインターバルトレーニングを行うと、長時間高強度運動を維持できる能力が向上します。また、ATを把握することで、オーバートレーニングや過負荷のリスクを減らし、効率的なトレーニング設計が可能になります。

重要性・役割

無酸素性作業閾値は、運動パフォーマンスの指標として重要です。ATを超えると乳酸蓄積が急増し疲労感が強まるため、持久系スポーツや競技における持続可能な運動強度の目安となります。トレーニングによってATを高めることで、より高い強度の運動を長時間維持でき、心肺機能や筋代謝の効率向上、競技力向上に直結します。さらに、健康維持や体脂肪燃焼効率の改善にも影響します。

関連する研究・エビデンス

研究によると、ATを用いたトレーニングはVO₂maxや運動持久力の改善に効果的であることが示されています。また、ATに基づいた負荷調整により、乳酸閾値を高めることができ、長距離ランナーやサイクリストのパフォーマンス向上に寄与します。さらに、心拍数や呼吸ガス分析を用いたAT測定は、スポーツ選手だけでなく健康評価やリハビリテーションの指標としても有用であることが報告されています。

よくある誤解や注意点

ATは「乳酸が急増する瞬間」と誤解されることがありますが、実際には乳酸はAT以前から生成されており、ATは乳酸蓄積速度が加速する変化点を指します。また、ATは個人差が大きいため、心拍数やVO₂などを個別に測定することが重要です。さらに、ATに基づくトレーニングでは、強度調整を誤るとオーバートレーニングや疲労蓄積のリスクがあります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 無酸素性作業閾値はどうやって測定しますか?

A1. 呼吸ガス分析や心拍数、血中乳酸濃度の測定により、ATを特定することが可能です。

Q2. ATを高めるトレーニングにはどのような方法がありますか?

A2. AT近傍の強度でのインターバルトレーニングやテンポランニングが有効です。

Q3. ATとVO₂maxの違いは何ですか?

A3. VO₂maxは最大酸素摂取量を示す指標、ATは持続可能な運動強度の境界点を示す指標です。

  • 乳酸閾値
  • VO₂max(最大酸素摂取量)
  • 解糖系
  • 持久力トレーニング